日本現象学・社会科学会 第40回大会プログラム

会場:立命館大学衣笠キャンパス学而館3階GJ301教室

大会参加費:会員無料、非会員500円(ただし大学学部生は無料です。)

 

【2023年12月2日(土)】

12:00 委員会(委員のみ)

13:30 開場

14:00-14:45 一般報告

信頼・真摯さ・証言的不正義

大橋一平(上智大学大学院)

司会:木村史人(立正大学)


15:00-17:30 シンポジウム

「法と権利の現象学の現在」


提題者:根岸陽太(西南学院大学)

松葉 類(立命館大学)

宮田賢人(小樽商科大学)


司会:青山治城(神田外語大学)

鈴木崇志(立命館大学) 


18:00〜 懇親会

会場:YOUR(ユアー)京都府京都市右京区龍安寺衣笠下町29



【2023年12月3日(日)】

10:00 開場

10:30-12:00 一般報告・午前の部


10:30-11:15 

1. 原爆の記憶を語り継ぐということ

徳久美生子(武蔵大学)

司会:高艸 賢(千葉大学) 


11:15-12:00 

2. 精神障碍者のピアサポート活動における哲学的可能性

屋良朝彦(長野県看護大学)

司会:中 真生(神戸大学) 


12:00-13:00 昼食

13:00-13:30 総会(会員のみ)


13:45-16:00 一般報告・午後の部


13:45-14:30

1  ASDのある子どもに対する特別支援教育実践の現象学の可能性――ハイデガーに着目して

呉文慧(神戸大学大学院)

司会:家髙洋(東北医科薬科大学)

 

14:30-15:15

2 エディット・シュタインにおける因果性の問題――ミュンヘン・ゲッティンゲン学派との接続を通して 

中川暖(上智大学大学院)

司会:鈴木崇志(立命館大学)

 

15:15-16:00

3  サイボーグ的な自己批判・自己改善の考察

大家慎也(京都府立医科大学)

司会:池田喬(明治大学)



第40回大会(2023年度) シンポジウム企画趣旨・各報告概要

 

〈シンポジウム企画趣旨〉

 「法」と「権利」は、現象学において長らく論じられてきた話題であった。例えばミュンヘン・ゲッティンゲン学派に属するA・ライナッハは、『民法のアプリオリな基礎』(1913)において、社会的関係のなかで形成される志向的体験のうちに法的な諸概念の起源を求め、それらの概念に関するアプリオリな法則を解明しようとしている。またH・ケルゼンの純粋法学の影響下でフッサール現象学を受容し、1920年代以降に活躍した研究者としてはF・カウフマン、F・シュライアー、尾高朝雄らを挙げることができる。さらに第二次世界大戦後には、E・レヴィナスが他者への責任を起点として独自の法・権利の議論を提示し、その着想は現代においてもB・ヴァルデンフェルスらに受け継がれている。

 このように法と権利の現象学は豊かな広がりを有している。のみならず、その研究は現在でも進行中であり、ますますその存在感を強めていると言ってよい。例えば現代の現象学研究者ソフィー・ロイドルトは上述のような研究史に幅広く目配りをして「法と権利の現象学(Rechtsphänomenologie)」に関する著作を数多く公表している(Sophie Loidolt, Einführung in die Rechtsphänomenologie, 2010: Phenomenology of Plurality. Hannah Arendt on Political Intersubjectivity, 2017, et al.)。また2023年にThe New Yearbook for Phenomenology and Phenomenological Philosophyにおいてライナッハに関する特集が組まれたことも記憶に新しい。さらに、政治哲学者ミゲル・アバンス―ルの「無始原」論のうちに、レヴィナス読解の一つの可能性を見いだすこともできるだろう(アバンス―ル『国家に抗するデモクラシー』、松葉類・山下雄大訳、2019年)。法や権利はいかにして形成されるのか、そしていかにして揺るがされ修正に向かうのか――こうした問題を私たちの経験に即して理解しようとする現象学的アプローチは、戦争・感染症・環境・セクシュアリティなどの諸問題において既存の法と権利の枠組みが問いただされている今、ますます重要性を増している。

 本シンポジウムでは、このような現代に至るまでの法と権利の現象学の展開を踏まえつつ、その理論的側面と実践的側面の両面に目配りをした議論を試みる。すなわち、法や権利に現象学的にアプローチするとはどういうことかという理論的問題に加えて、そのようなアプローチが現代の法や権利をめぐる諸問題においてどのような意義を持ちうるかという実践的問題にも取り組んでいきたい。

 そして本シンポジウムにおいては、これらの問題を多面的に論じるべく、根岸陽太氏(西南学院大学)、松葉類氏(同志社大学)、宮田賢人氏(小樽商科大学)を登壇者としてお迎えし、議論を進めていく。根岸陽太氏は、近年、フッサールの生活世界論に依拠した現代の国際法学への問題提起や、他者の生きられた経験を分析の中心に据える現象学的「人権法意識論」の提示を行っている。また松葉類氏は、レヴィナス研究の観点から、倫理的責任とは区別される意味での「政治的責任」概念にもとづいたデモクラシー論を展開し、レヴィナスの現象学が政治や法へとつながる道筋を描き出している。そして宮田賢人氏は、尾高朝雄やフッサールの議論を手がかりとした「法的確信」についての現象学的分析などを行い、法という対象の構成に関する研究に取り組んでいる。現代社会に生きる人びとへの細やかな目配せをしつつ、それぞれの専門分野で魅力的な議論を展開するお三方の提題をつうじて、現在の、そしてこれからの「法と権利の現象学」を考えるための見通しが与えられるだろう。

企画:青山治城(神田外語大学)

家髙洋(東北医科薬科大学)

鈴木崇志(立命館大学)


〈各提題趣旨〉


「国際法志向性の現象学的分析」

根岸 陽太(西南学院大学)

国際法学では、抽象的な実体である国家の意思を対象として、非法律学的要素を排除して欠缺なき統一的法体系を構築する法実証主義が主流となってきた。事実学への実証主義的還元は、実定的な国際法規範それ自体が、経済的不平等・社会構造的暴力・世代間不衡平などの人間的生の喪失に寄与してしまうという事実を覆い隠すことになる。このような国際法学と人間的生との乖離を克服するために、客観的科学の基底にある生活世界へと帰還する現象学的還元を経て、人間的生と国際法規範の間に相関原理としての志向性が働いていることを明らかにする。手順として、作用と意味の相関性により対象が構成される構造を分析する静態的現象学、身体を媒介として広がる時間的・空間的な地平を分析する発生的現象学、言語を通じて形成される共時的・通時的な世代・文化を分析する世代発生的現象学を応用する。具体例として、人間的生が最も先鋭的に発露する国際人権規範を扱う。




 

「「厳しき法、されど法なり」――レヴィナスの法制度論」

松葉 類(立命館大学客員協力研究員)

 二〇世紀にフランスで活動したユダヤ人哲学者、エマニュエル・レヴィナス(1906-1995)は、現象学を出発点としつつ、根源的言語をもたらす特異的な「他者」との倫理的関係を論じた。さらに彼は、この特異な他者の複数性を問うことで、独自の法制度論を立ち上げようとした。

 レヴィナスの議論を端的に示しているのが、彼の「厳しき法、されど法なり(Dura lex, sed lex.)」の解釈である。一般にこの表現は、ソクラテスに由来する、法治国家における法の正当性についての法諺、あるいは、法実証主義者ケルゼンのように法と道徳の分離、そして法規範の自律性を説いた法諺とされる。ところがレヴィナスは、それとは反対に、「いかに堅固な法でも、法である限りは更新しうる」と解釈しようとしている。本発表は、彼のこの発想が何を問題としており、いかなる法制度をもたらしうるかを考えたい。

 



「法への現象学的アプローチの課題と可能性:法哲学者の観点から」

宮田 賢人(小樽商科大学)

 ソフィー・ロイドルトのEinführung in die Rechtsphänomenologie(『法の現象学入門』)は、フッサール以降の法現象学の企てを網羅的に整理したものであり、法現象学に関心を寄せる者にとって有益な一冊である。その一方で、現象学研究者によって執筆された同書は、現代の法哲学=法理学の議論に対して現象学がいかなる仕方でレレヴァントであるかを十分に考察していない。本報告の目的は、法への現象学的アプローチが現代の法哲学の議論にいかなる貢献をなしうるかを法哲学者の観点から整理・考察することである。法哲学の課題は三つの領域に分けて整理されることが多い。すなわち、法とは何かという法の概念の解明を中心とする「法の一般理論」、法の解釈・適用過程や法的推論の構造の解明を試みる「法律学的方法論」、法の目指すべき価値とその具体的な制度構想を探究する「正義論(法価値論)」の三つである(田中成明『現代法理学』)。本報告は、それらの課題(特に法哲学に固有の前二者)との関係で、現象学的アプローチの可能性を考察する。

 

 

【一般報告】

1 信頼・真摯さ・証言的不正義

大橋 一平(上智大学文学研究科)

近年、信頼に関する研究は倫理学、認識論の領域において盛んに行われてきている。そこでは主に信頼が適切である要件として、信頼する側ないし信頼される側の能力competenceや誠実さsincerity(または善意good will)が問題にされてきた。本発表ではこれまで主題的に論じられてこなかった、対人間での信頼関係における「真摯さseriousness」の役割についてKatherine Hawleyによる信頼のコミットメント説の検討を通して論じる。特にHawley(2017)による独自の証言的不正義(Fricker 2007)の再解釈に焦点を当てる。さらには責任ある信頼のあり方として、能力や誠実さの有無だけでなく、物事へのコミットメントの深さと、そのコミットメントへの応答としての真摯さという要素が、前二者に劣らず要求されることを示す。

 




2 原爆の記憶を語り継ぐということ

徳久 美生子(武蔵大学)

体験を語れる原爆被爆者が減少する中、広島市、長崎市、国分寺市では、被爆体験を伝承(継承する)語り手が育成され、活動している。継承に際しても、被爆体験という被害体験に限らない、軍都廣島が抱える加害問題も含めた原爆の記憶の継承が求められてもいる。だが原爆の記憶を語り継ぐとはどういうことであり、何をどのように伝えるのかについては十分に検討されてきたとはいえない。本報告では、広島市を中心に続けてきた聞き取り調査と参与観察の結果をもとに、原爆の記憶とはどのようなものであり、現在それを語り継ぐことにどのような課題と意味があるのかを検討する。

 




3 精神障碍者のピアサポート活動における哲学的可能性

屋良 朝彦(長野県看護大学)

本発表では、社会的孤立を解決するためにピアサポート活動が有効であることを、実践的及び哲学的側面から考察する。世の中には病気や障害、貧困、ハラスメント、人種やジェンダーや社会的出自等、様々な理由で社会的に孤立している人々がいる。とりわけ精神障害による孤立は独特な問題を抱えている。本発表では精神障碍者のピアサポート活動を考察することによって、この問題に対する一つの解決策を提案したい。その過程で孤立は当事者の問題ではなく、社会の問題でもあるという側面も明らかにする。

考察の観点として、近年注目されている精神療法であるオープン・ダイアローグを手掛かりに、対話の哲学者バフチン及び精神医学哲学者ボルク=ヤコブセンを参照する。

 



4 ASDのある子どもに対する特別支援教育実践の現象学の可能性――ハイデガーに着目して

呉 文慧(神戸大学大学院人間発達環境学研究科)

ASDのある子どもに対する教育に関する現象学的研究はいくつか存在する。それらは,①ASDのある子どもの<身体>や内面世界を描き,実践者はそこから導き出された関わり方を採用するという「ASDのある子どもの現象学」,②ASDのある子どもと彼/女らに関わる実践者の関係に焦点を当てて彼/女らへの支援を考察,実践したものである「ASDのある子どもとの関係の現象学」,③ASDのある子どもではなく,ASDのある子どもに関わる実践者に焦点を当てた「ASDのある子どもと関わる実践者の現象学」へと類型化することができる。これを踏まえて本報告では,ハイデガーの解釈学的現象学に注目し,授業で使用される道具への注目,そして実践者とASDのある子どもの世界の重なりの様相を描くことの重要性を提起する。



 

5 エディット・シュタインにおける因果性の問題――ミュンヘン・ゲッティンゲン学派との接続を通して

中川 暖(上智大学大学院)

初期エディット・シュタインが心理因果性の二重の法則である因果性と動機づけの概念の関係性をミュンヘン・ゲッティンゲン学派との思想上の接続を通して再考察していることは周知されている。その中でもシュタインが物理的な因果性と体験の因果性の区別化などの意識と心理の境界線に関わる問題を、プフェンダーやインガルテンの見解を援用して展開した経緯と、その意図は明瞭とは言えないように思われる。本発表で試みるのは、シュタインの因果性に関する心理学的な分析を、ミュンヘン・ゲッティンゲン学派が推し進めた因果性の実在論的立場から再検討することである。

 


 

6 サイボーグ的な自己批判・自己改善の考察

大家 慎也(京都府立医科大学)

近年、人間の身体と人工物のカップリング(ここでは「サイボーグ」と呼ぶ)に焦点を当てた研究がおこなわれている(Clark, 2003; Verbeek 2011など)。本発表においては、これらの研究を概観したうえで、サイボーグ的主体が自らの主体性を能動的に問い直し、それをより善く改善してゆくこと(すなわち、「サイボーグ的な自己批判・自己改善」)における、人間存在の貢献を考察する。とりわけその際に、サイボーグ的状態における人間存在の能動性に着目する。人間存在の能動的諸活動が技術によって方向づけられ、また置き換えられつつある現代社会において、本研究は人間存在のもつ能動性を問い直す契機を与えると考えられる。

 


 

大会会場について

会場:立命館大学(衣笠キャンパス) 所在地 〒603-8577 京都市北区等持院北町56-1

https://www.ritsumei.ac.jp/accessmap/kinugasa/


一般報告・シンポジウム・総会 学而館3階GJ301教室

会員控室              学而館3階GJ302教室

委員会                    学而館3階GJ303教室


12月2日懇親会場: YOUR(ユアー)京都府京都市右京区龍安寺衣笠下町29
懇親会費は以下を予定しています:4000円(一般)3000円(非常勤)、2000円(学生)

※12月2日・3日の両日とも、大学内の食堂は閉店しております。近隣にはコンビニや飲食店もございますが、それほど数は多くありませんので、ご昼食をご持参することをおすすめいたします。